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2005/03/01

パニック!その2の4

 覚悟してしまえば、どんな状況でも人は落ち着いていられるものだ。

---前回からのつづき---
 男は右手に凶器を提げたままゆっくりと近づいてくる。退路はない。状況は甚だ絶望的であり、楽観的要素は何もない。ところが、そういう状況が逆に俺を開き直させた。意外と冷静に考えられる。とにかく「ナタ」が振り回されれば終わりだ。最低でも大怪我は免れまい。しかし振り回さなければ長物の凶器はただの棒っきれでしかない。まだ男は攻撃態勢に入っていない。
 奥の座敷にいた俺は、男を刺激しないよう、まるで落ちた鉛筆でも拾うかのように、男のことなどまるで気が付いていないとでもいうがごとく、自然に間合いを詰めることにした。もう覚悟は出来ている。凶器を振り回す前に飛びつき、首根っこを押さえ、足を払いつつ男の頭をテーブルもしくはカウンターに叩き付けるのだ。それを行動に移すのみ。
 俺はゆっくりと座敷から降り、次の瞬間、男に飛びかかるはずであった。が、ここで致命的な失敗をする。今まさに降り立とうとする床は、厨房から続く通り道でもあり、普段から非常に汚れている。そこに素足で降りるわけにも行かないので、俺はいつもの習慣通りに靴を履こうと、まごついてしまったのだ。

(何をやっているんだ俺は! 今にも死ぬかという時に、靴下ごときの汚れを気にするとは! 自分を冷静だと思っていたのはどうも勘違いだったようだ。)

それは一秒にも満たない時間ロスであったが、男がナタを振り上げることに気が付くには充分過ぎた。

 男はナタを頭上に振り上げようとしている。
 俺は今にも飛びかかろうとしている。

---つづく---

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