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2005/04/15

パニック!その2の7

 この項、ちょっと長くかかり過ぎた。今回で終わらそう。

 連行された侵入者と共に、事情聴取のために警察署へ向かった俺であったが.......。

---前回からのつづき---
 警察で事情聴取を受けたのは、以前、交通事故に巻き込まれた時以来で、その時が始めてではなかった。俺は落ち着いたもので、警察官の質問に滞りなく答えるものの、心は何処か虚ろだった。

「○時○分、逮捕。と、.......。」

警官はそのように調書に記入していた。警官でなくとも、犯人を捕まえることを“逮捕”というのだそうだ。もっと詳しく言うと、「現行犯に限り、民間人でも犯人を逮捕することが出来る。」という法律があって、そのものズバリ、民間逮捕というらしい。(へぇ、逮捕ねぇ。そんな当たり前なことにも、いちいち法律があるのか。)
 そうこうするうち、俺のは終わって、板前さん、女将さんの順に聴取が始まった。俺はそこから少し離れたベンチに座って、皆が終わるのを待っている。あれ? 気が付けば凶器のノコギリを俺が持ったままだ。(まだ持ってていいのかなぁ、誰に、いつ渡せばいいのだろうか?)そんなことを、凶器をいじりながらぼんやり考えているうちに、男が進入してきた瞬間がフラシュバックされる。今頃になって体が震えてきた。もちろん、一瞬でも死を覚悟したのだから、その怖さもある。しかし、もっと恐ろしいのは、保身のためとはいえ、ためらうことなく瞬時に殺人を実行に移した自分自身に対する恐怖だった。(殺していたら、今頃俺はどうなっていたのだろう?)
 学生の時分に読んだ「異邦人:カミュ作」という小説の一節を思い出す。大した理由もなく殺人の罪を犯した主人公は、護送車の鉄格子の間からのぞく風景に、かつて自分の住んでいた町並みのような懐かしさを感じながら思う。

「あたかも、夏空の中に引かれた親しい道が、無垢のまどろみへも通じ、また獄舎へも通じうる、とでもいうように。」

 俺はついさっきまで、いつもと変わらぬ明日が来ると信じていた。また明日も居酒屋で働き、その次の日は画塾に通い、その次の日は、そしてその次の日は、.......。ところがどうだ、見ず知らずの侵入者のせいで、それがいかにあやふやなものかということを思い知らされた。(俺は人殺しになるところだったのか! もし、そんなことをしていたら、いくら正当防衛とはいえ、それまでの自分とは違う人生を歩むことになっていただろう。)

 その後、店に戻り、警官が現場の被害状況を写真に収めた後に、簡単に片付けをして、途中だった食事を再開する。三人とも妙にテンションが上がっており、ビールを飲んじゃうかということになり、次は焼酎に行くかということになり、あの時のお前はどうだったとか、何をボヤボヤしてたのさとか、女将さんの走る姿がどうのとか、ケラケラ笑いながら気が付くと、既に時計は正午に近かった。事件が起きたのは早朝だ。仕事の疲れがあったにせよ、三人ともどうかしていたのは間違いなかった。

 その日の夜、再び店に出勤すると、既に割れたガラスは交換されており、事件の痕跡は無くなっている。まるで今朝の出来事に現実感が無くなっている。やや不安になって女将さんに挨拶すると、事の顛末(てんまつ)を知らされた。侵入者の母親が女将さんのところへ挨拶しにきたらしい。その母親によると、侵入者である息子さんは、精神科の病院から退院してまだ数日しか経っておらず、事件を起した動機も、「(中で食事をしていた俺たちが)楽しそうだったから。」「仲間に入れて欲しかったから。」というわけの分らないものであった。母親の、とにかく申し訳ありませんと何度も平謝りする姿を見た女将さんは、なんだか気の毒になってしまったそうだ。
 今になっても俺は思うのだ。あの時手荒なことをしなくて本当に良かった、と。そして、大した怪我もしなかった分、当時のあの店を選んだ侵入者の彼は幸運だったのかも知れない、と。

 彼は今頃どうしているのだろう。

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